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論文

 日本の科学技術政策の方針を決定している最高機関に、総理大臣を議長とする「総合科学技術会議」という組織がありますが、そこが10月17日に来年度の科学技術予算の概算請求を検討するために、どの研究項目に重点的に予算配分するかの評価を発表しました。
 約200件の研究項目について、積極的に実施する「S」から「A」「B」を経て見直しが必要という「C」まで4段階の評価をしています。
 日本の国家予算は全体で横這いの中、科学技術予算は例外的に増大を認められて4兆円が割り当てられている分野ですが、それでも予算には限りがあるので、評価をして重点配分するのは妥当なことなのです。

 ところが「ニュートリノ実験施設の建設」の評価を最低の「C」にしてしまったことが問題になりました。ニュートリノといえば、小柴昌俊先生がノーベル物理学賞を受賞された分野ですから、当然、反論が登場します。早速、その小柴先生が大憤慨され「なぜそんな馬鹿げた評価ができるんだ」と激しく非難されました。小柴先生にしてみれば、ノーベル賞を獲るほど貢献している研究なのに何故だという気持ちだと思います。
 この評価の責任者は元京都大学総長の井村裕夫先生ですが、「将来的にも不要というわけではないが、計画の前倒しまでは正当化しがたい」と意見を表明しておられます。
 ノーベル化学賞を受賞された理化学研究所の理事長をしておられる野依良治先生は「学術の研究評価は、すべて主観で、ピカソとベートベンのどちらが良いか、客観的には決められないのと同じ」と言われ、まさに科学技術分野の大物が関与するノーベル賞級の問題になってしまいました。
 私が国の科学技術研究予算を評価していた会議で、東北大学の学長をされた西沢潤一先生が、周りを見渡して、天才的な学者が研究しようとしていることを、普通の学者が理解しようとしても無理だといわれ、委員一同、下を向いてしまったこともありますが、一律に判断するのは難しい問題です。

 これは科学技術以外の分野でも起こっています。ムーディーズ・インベスターズ・サービスというアメリカの格付け会社が、昨年の5月末に日本政府の発行している国債の評価を一気に2段階も下げて「シングルA」にして、塩川財務大臣や財務省が抗議した事件がありました。ところが、その直後にアメリカの証券会社ゴールドマン・サックスは日本の国債は「トリプルA(Aaa)」が妥当だという報告書を発表しました。「トリプルエー」と「シングルA」では5段階も開きがあるので、どれを信用していいか分からなくなってしまいます。

 1992年に経済企画庁が「新国民生活指標」という統計を発表しました。これは139種類の資料をもとに、47都道府県を1位から47位まで順位付けをしたものですが、大変に評判が悪く、下位になった埼玉県の土屋義彦知事や岐阜県の梶原拓知事などが猛烈な抗議をし、岐阜県などは岐阜県が1位になる独自の指標を発表したほどでした。
 その順位表では、山梨県が生活にゆとりがあるという分野で1位だったのですが、その発表の直後に山梨県知事にお目にかかったので「1位でよかったですね」とお祝いを申上げたら、「あれは山梨県の失業率が全国最大で仕事がないから、あのような結果になるので、幸せでもない」と言われました。
 そのような状態だったので、1999年に堺屋太一経済企画庁長官の「あれは身長と体重と視力を足して、どこがいいというようなものだ」という名言とともに、廃止になりました。

 ムーディーズ・インベスターズ・サービスという会社の名前からも分かるように、あの会社は20世紀初頭に、アメリカで多数の鉄道会社が社債を発行したときに、投資家にどの鉄道会社の社債が安全かについての情報を提供したのはそもそもです。もう一つのアメリカの格付け会社スタンダード・アンド・プアーズも同様で、国家の格付けをしたわけではないということです。
 新国民生活指標も都道府県が政策を検討するための参考として制作したもので、その地域の格付けではないのです。
 格付けの目的は何かを理解して冷静に扱えばいいと思います。





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