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論文

 最近、東京湾の浅瀬の海底が、時々、怪しく緑色に光るという怪談が流布しています。
 調査したところ、ミドリイガイという表面に緑色の筋のあるムール貝のような二枚貝が大量に海底に繁殖していて、光の加減で海上からも緑色に見えるということが分かりました。 このミドリイガイは東南アジアの海に繁殖している二枚貝で、現地ではシーフードとして食べられているものですが、日本には生息していませんでした。

 どうして東京湾で大量に生息しているかというと、船が運んできたからです。
 大型の船は安定して航行するために、船の底のほうに大量の海水を取り込みます。これは半端な量ではなく、大型タンカーでは50メートルの競泳用プール2000個分の水を出し入れします。この水はバラスト水といわれ、積荷の量によって増減しますから、東南アジアの港を出港するときに、取り入れた海水を東京湾で排出することも当然あります。その水のなかには様々な生物の幼虫などが含まれているのですが、大抵の場合は環境条件が合わないので死滅してしまいます。しかし、たまには環境条件が適合して大量に繁殖する場合もあります。
 ミドリイガイの場合、水温が10度以上でしか繁殖できないので、東京湾では死滅していたのですが、工場や火力発電所からの温排水によって海水の温度が冬でも10度以上に保たれる場所で繁殖するようになり、1986年頃から発見されています。
 最近では、東南アジアからの大型船が寄航しないような瀬戸内海の港でも発見され、徐々に繁殖しているようです。

 先週、環境省の中央環境審議会・移入種対策小委員会が、外国から生物を持ち込むことを規制する法律を作成するべきであるという中間報告書を発表しました。
 この報告書に列挙された生物は、アライグマ、ワニガメ、アリゲーターガーなどのようにペットとして輸入されたり、マングースのようにハブを退治するために輸入されたり、ウシガエルのように食用に輸入されたり、ブラックバスやブルーギルのように釣の楽しみのため輸入されたり、最初のきっかけは様々ですが、ミドリイガイのように意図せずに入ってきたものも多数あります。
 その結果、現在では日本国内には日本固有の生物ではない外来種が2000種類は生息していると推測されています。

 様々な問題がありますが、まず人間にとって危険だという問題があります。ワニガメは名前のように鋭い歯があり、人間の指を噛み切ってしまいますし、アリゲーターガーも3メートル近くまで成長し、これも鋭い歯がありますから、危険です。また、意図して持ち込まれた動物ではありませんが、関西地方で繁殖しているセアカゴケグモなども、噛まれると子供やお年寄りは命に影響することもあります。
 別の問題は、外来種が既存の生物を滅ぼす可能性があるということです。例えば、琵琶湖など全国各地の川や湖で問題になっているブラックバスやブルーギルは既存の魚を大量に食べてしまい、琵琶湖ではアユやニゴロブナが急速に減っていますし、
 奄美大島ではマングースが天然記念物のアマミノクロウサギを滅ぼしかねない状態です。
 黒海では、バラスト水で運ばれたクシクラゲが大量に繁殖し、1立方メートルの海水のなかに500匹も棲息するようになり、動物性プランクトンを大量に食べたために、漁業の対象であったカタクチイワシが姿を消してしまい、黒海の生物量の95%がクシクラゲになってしまったという例もあります。
 同じ種類が駆逐されるという問題もあります。ミツバチの世界ではハチミツを大量に取れる西洋ミツバチが輸入されましたが、それによって日本ミツバチは追いやられていますし、日本タンポポも西洋タンポポに追いやられています。

 これは文化の世界ではウィンブルドン効果といわれる現象です。イギリスのウィンブルドンで開催されるテニス大会では、最近でこそ、イギリス人のティム・ヘンマンが上位まで進出していますが、もっぱらアメリカ人やオーストラリア人、最近ではヨーロッパ各国の選手が優勝し、庇を貸して母屋を乗っ取られるという状況で、これをウィンブルドン効果と言います。
 日本のスポーツも近い状態で、サッカーも得点ランキングの上位は、大久保がかろうじて同点2位に入っていますが、10位中7人は外国選手ですし、プロ野球も4番は外国選手が大半という状態です。さらに国技である大相撲でさえ、現在の横綱はアメリカとモンゴルから来た選手ですし、幕下以下には東欧の選手も大量に控えていて、どうも西洋ミツバチに駆逐される日本ミツバチの様相に似ています。
 同様に、演歌はポップスに駆逐されて、ランキング上位は英語の題名の音楽ばかりですし、日本の映画館で上映されている映画も70%以上はアメリカ映画という状態です。

 このような現象をどう理解するかですが、世界各国の相撲取りの勝負が見られて楽しいとか、日本の文化も世界から関心を持たれていいとか、世界の最強のサッカー選手の技を鑑賞できて素晴らしとか、世界でもっとも面白い映画が鑑賞できていいと思うか、やはり、それでは寂しいと思うかですが、歴史を振り返ってみると、傭兵を雇って軍隊を強化したりした国家は、その傭兵によって滅ぼされた例も数多くありますから、環境省が検討しているように、外来種は歯止めが必要ではないかと思います。





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