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論文

 産業分類については中学校や高等学校で勉強されたことがあると思います。
 農業や漁業を一次産業、建設業や製造業を二次産業、輸送業や通信業、また卸売業や小売業、さらには金融や証券などを、まとめて三次産業という分類です。
 このように産業を分類するという発想は以外に古くからあり、17世紀のイギリスの経済学者ウィリアム・ペティが最初に示唆していますが、イギリスの経済学者コーリン・クラークが1940年に『経済発展の諸段階』という有名な本で、産業を一次、二次、三次に分類する根拠を明確に説明しています。
 この分類の基準は、自然のなかから人間が必要とするモノを取り出す仕事が一次産業、その取り出したモノを人間に役に立つように加工する仕事が二次産業、その加工されたモノを必要とされる場所やヒトに配分する仕事が三次産業というわけです。
 例えば、漁業は海の中から人間が食べることのできる魚を取り出すから一次産業、その魚を缶詰にする水産加工業は二次産業、その缶詰を日本各地に流通させるのが三次産業というわけです。

 これはコーリン・クラークが研究した戦前には妥当な考え方でしたが、それから60年以上も経過した最近では実態に合わなくなりつつあります。
 例えば1940年の日本の就業人口は一次産業が45%、二次産業が26%、三次産業が29%でしたが、現在、一次産業はわずか5%になってしまい、二次産業が30%、三次産業が65%という状態で、三次産業が圧倒的な規模になりました。
 そこで平成14年には、日本も分類方法を一部変更したりしていますが、本日は最新の月尾理論による分類をご紹介させていただこうと思います。

 時間の関係で今日は一次産業についてだけ説明させていただきますが、一例として林業を考えますと、最近の林業は数十年かけて育てたスギやヒノキを一町歩(約1・3ヘクタール)伐採しても数百万円にしかならず、伐採する費用と市場まで輸送する費用で赤字になってしまう状態です。それを端的に表すのは、2ヶ月程度で栽培できる大根が1本200円ですが、20年目に伐採した間伐材は1本100円にしかならないという数字です。
 仕事をすればするほど赤字が増えるということですから、これを産業というのはおかしいというわけです。
 ところが、森林は「緑のダム」ともいわれ、水源を維持する機能や洪水を防止する機能がありますが、それを貨幣価値に換算すると合計75兆円もの恩恵を毎年社会にもたらしているという計算があります。そうであれば、森林事業の赤字を税金で補填することにも社会的な意味はあるのではないかということになります。
 先週、WTO閣僚会議で農産品の関税について議論がされましたが、農業も林業に近い状態で、日本の水田で生産されるコメの価格の合計は2兆3000億円程度ですが、その水田の保水機能や気候安定効果などは7兆円と計算されており、生産される農産品の価格以上の環境維持効果をもたらしています。
 一次産業は経費よりも収入が上回るという産業の原則からすれば、産業とは言えないけれど、それらが環境を維持する役割を金銭で評価すれば、膨大になるので、それを認めて環境保全活動と考え、副産物として農産品や林産品が生産されると考えたらどうかということです。

 このように視点を変えてみると意外なビジネスが発見できます。最近、全国各地で漁師さんが山へ植林をしているということが話題になります。特に気仙沼では「森は海の恋人」という名文句で毎年6月に植林をしていますが、全国から多数の人々が参加しています。
 漁師さんが植えている木はほとんどが広葉樹ですから、いずれ材木にしようというわけではなくて、山を保全して、海にミネラル豊かな水が流れてくることを期待しているわけです。これまで日本の植林というと針葉樹中心でしたから、広葉樹の苗木を供給するビジネスはほとんどありませんでした。ところが、全国で広葉樹の植林が盛んになると、その苗木を供給するビジネスが繁盛するということになります。

 木炭も最近は注目されるビジネスになっています。戦後しばらくは、伐採される木材の半分が薪や炭に使われていたのですが、現在では1%程度しか使われていません。石油や天然ガスに取って代わられたせいです。
 ところが最近、炭の生産が増えてきました。何に使われるかというと、家を建てるときに、床下に炭を敷いておくと、湿度調整ができるとか、川の浄化のために、炭をカゴに入れて川の中に沈めておくとか、農地の土壌改良に使用するなどです。
 一時は不要と思われていた一次産業が、環境保全という視点なら見直すと新しいビジネスになるというわけです。

 アメリカの有名なコンピュータ学者アラン・ケイが「視点はIQ80に相当する」と言っています。つまり、物事をどのような視点で見るかによって80%が決まってしまいということです。ぜひ、一次産業は衰退産業などと考えないで、新しい視点で発展させてほしいと思います。





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