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論文

 昨日の17日、東京都と東京都に本社のある資本金5兆円以上の銀行との間で、銀行税についての和解が成立しました。
 これは2000年2月7日に石原東京都知事が「これから重大な発表をします」という前触れで記者発表したもので、従来のように法人の所得に課税する「応能課税」ではなく、企業の資本金や従業員数や給料総額などを基準に課税する「応益課税」の一種である外形標準課税といわれる制度を導入したものです。
 「応能課税」は税金を負担できる能力のある個人や法人に課税するという考え方ですが、その結果、法人の7割は赤字で法人事業税を納入していないという状態になっています。しかし、そのような会社も道路などの公共施設を使っているのだから、公共サービスの恩恵を受けている程度に比例して税金を支払ってもらうというのが「応益課税」の考え方です。
 赤字で税金をたいして払っていない銀行員の給料が高いというような不公平感が世間にあったので、銀行税には喝采した人々も多かったのですが、裁判では一審も二審も東京都の敗訴となりました。
 しかし、二審の判決は、課税は妥当であるが、3%という税率が高すぎるという内容であったので、税率を下げるということで和解するということになったわけです。
 その結果、これまで3年間、3%の税率で3173億円を徴税していたのですが、税率を0・9%にして、集めすぎた2221億円とそれについての利子123億円を合計した2344億円を返却するということになりました。

 このように地方自治体が独自に課税できるという制度は2000年4月から施行された「地方分権一括法」のなかで地方税制が改正され、地方自治体の課税自主権が大幅に認められた結果で、現在、様々な独自の課税が始まっています。

 その制度によって最初の法定外目的税を設定した栄誉を担ったのは山梨県にある河口湖を取り囲む河口湖町、勝山村、足和田村による「遊漁税」で、2001年7月1日から河口湖で釣りをする人は一人200円を支払うことになりました。
 東京都は2002年10月からホテル税を集めており、一泊1万円以上で1万5000円未満のホテルに泊まる場合は100円、1万5000円以上の場合は200円を課税しています。これには片山鳥取県知事が、課税は自由だが全国規模の会議は東京以外で開催しようと反論し、それに対して石原東京都知事が安いホテルを紹介してやると嫌味を言って有名になりました。
 それ以外にも、すでに実施されているのが三重県の産業廃棄物税で2002年4月1日から、年間1000トン以上の産業廃棄物を三重県に投棄する業者に1トンにつき1000円の税金を課すという制度ですし、高知県では森林環境税を今年の4月から始め、県民一人が年間500円を支払うことになっています。

 検討中の法定外目的税も多数あり、高知県に見習えということで、森林環境税を検討している地方自治体は35道県になっています。
 山梨県ではミネラルウォーターを県内で取水している事業者に課税しようと検討しており、事業者ともめている段階です。山梨県では35の事業者が取水しており、日本のミネラルウォーターの約半分の50万キロリットルが山梨県産ですが、その水源を保全する森林環境保全事業に年間360億円の予算を使っていますから、このような発想が登場するのも無理はないと思います。
 それ以外には、静岡県が富士山の環境保全のために、登山者から環境税を徴収しようとか、岐阜県が乗鞍山の環境保全のために、乗鞍スカイラインを通行する営業車(自家用車は通行禁止)から通行料を徴収する乗鞍環境保全税を検討しているなど次々と新税が検討されています。

 次々と法定外目的税が登場してきた理由はいくつかありますが、第一は地方自治体の財政が厳しいことです。自治体収入のうち法人事業税は3分の1になりますが、これがこの10年間で40%近くも減っています。それを補うために地方債を発行して借金をするのですが、その累積が地方自治体全体で199兆円にもなっているのです。これは一人当たりに換算すると160万円にもなります。
 第二は地方分権一括法の施行により、地方に独自の徴税権限が与えられたので、それを駆使して財政状態を改善しようということです。東京都の銀行税は、その目的が明確です。
 第三が、もっとも重要だと思いますが、高知県の橋本知事が森林環境税について言っておられるように「財源ではなく、納税者の意識を変えること。自分で負担した税が、どう使われるかを見届け、森林環境を考える契機になる」ということです。
 実際、高知県の森林環境税は年間1億4000万円程度にしかならず、高知県が森林保全に充てている費用の170億円に比べれば微々たるものです。
 しかし、このような税金を新たに設けるために1年以上もシンポジウムを開催したり、インターネットでアンケートをとったりして県民合意を得る努力をしてきました。もちろん反対もあり、高知県の森林は愛媛県や香川県へ水を供給するダムの水源にもなっているので、どうして他県の人間のために自分たちが税金を払わなければならないかという意見もありましたが、結局、使い道がはっきり分かる税金であれば納得できるという意見が多数になりました。

 これまで、私たちは税金を支払っても、それがどのように使われているかに無関心すぎたと思います。そのために、一部の利益のために不要な公共事業が増えるというようなことにもなってきました。
 このような新しい地方税が増えていけば、税金に見合った行政サービスが提供されているかどうかを住民が意識し、それが地方を変えていくことになると思います。





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