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論文

 来週の水曜日8月27日に火星が地球に最も接近します。距離は約5576万キロメートルで、この距離になるのは6万年に1回しかないので、騒がれているわけですが、地球の公転周期は365日、火星の公転周期は687日なので、2年2ヶ月ごとに地球は火星を追抜いていますから、その度ごとに接近をしているのです。
 しかし、火星の公転の中心がずれているので、接近したときの距離が異なり、大接近になったり小接近になったりし、今年は大接近のなかでも特別の大接近というわけで、研究者が色めきたっているというわけです。
 この時期を目指して、日本は1998年に火星探査機「のぞみ」、アメリカは2001年に「マーズ・オデッセイ」、2003年に「マーズ・エクスプロレーション」、欧州宇宙機関は2003年に「マーズ・エクスプレス」を打上げて、観測態勢に入っています。
 その内容や、一般の方々の火星観察の方法などについては、すでに様々な案内がありますので、今日は普通の人々にもっとも関心のある火星に生物がいるかについて考えてみたいと思います。

 火星は明るい星であるうえに赤い色をしているので、古代から人間は関心をもっていました。16世紀のデンマークの天文学者ティコ・ブラーエは肉眼で16年間も火星の位置を観測し、その観察記録がドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーが「ケプラーの法則」を発見することに貢献しました。
 イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイが最初に望遠鏡を向けたのは火星だと言われています。しかし、何と行っても火星を一般の関心の対象にしたのは19世紀に活躍したイタリアの天文学者ジョバンニ・ヴィルジニオ・スキャパレリです。彼は1877年に口径22センチメートルの屈折式望遠鏡で火星を観察して火星地図を作成したのですが、そのなかに多数の規則正しい「すじ」があることを発見しました。この「すじ」はイタリア語で「カナリ」と書かれていたのですが、フランス語に翻訳されるときに「カナール」となり、さらに英語に翻訳されて「キャナル」となったため、火星に運河があるという誤解に発展してしまいました。
 その誤解をさらに発展させたのが、アメリカの大金持ちのアマチュア天文学者のパーシバル・ローウェルで、自分で巨大な望遠鏡のある天文台をアリゾナ州に建設して火星を観測し、1906年に、キャナルは本当に運河で火星人が建設した灌漑用水路であると主張しました。ローウェルの火星地図は航空機の路線図のように、直線の運河が火星全体を覆っているものです。最近の観測では、そのようなキャナルは発見できず、ローウェルの目の錯覚であったと考えられています。

 しかし、ローウェルの発表によって、火星には運河を計画し掘削できるような知能をもつ生物がいるということになり、次第に空想が膨らんで頭が大きく細い多数の足で立っているタコのような火星人が誕生しました。
 これは知能が高いということで頭を巨大にし、火星の重力は地球の3分の1程度ですから、足は細くてもいいということになったのです。
 この火星人を一般の人々が知るようにしたのは2人のウェルズという人間です。第一のウェルズは、「タイムマシン」や「透明人間」というSF小説で有名なイギリスの小説家ハーバート・ジョージ・ウェルズで、1898年に火星人が地球を攻撃してくるという「宇宙戦争(The War of the Worlds)」を発表し、現在でも様々な映画の主題となる侵略者としての宇宙人のイメージを作り上げました。
 これはヨーロッパでは、火星はローマ神話にでてくる戦争の神様マルスの名前をとってマルスと呼ばれることから分かるように、戦争に関係あると考えられていることを背景にしているからだと思います。
 もう一人のウェルズが、アメリカ生まれの天才映画監督オーソン・ウェルズです。彼は1930年代にCBSラジオの「マーキュリー・シアター」という番組の制作をしていましたが、1938年10月30日にH.G.ウェルズの小説「宇宙戦争」を題材にして「世界戦争(The War of the Worlds)」という番組を放送しました。
 音楽番組が突然中断し、「只今、ニュージャージー州に宇宙船が着陸し、火星人が襲来しました」というナレーションが入り、しかも当時のフランクリン・D・ルーズベルト大統領の声色まで使ったので、聞いていた100万人以上の人々がパニックになったという大事件になりました。ウェルズが23歳のときの演出で、一躍天才として有名になった放送です。

 現在では、アメリカの火星探査機「マリナー9号」が1971年に火星の表面に着陸して写真を撮影したり、1996年にはアメリカの「マーズ・パスファインダー」が着陸して「ソジャーナー」という名前の探査車が表面を走行して撮影したりして高等な生命は存在していないと推測されていますが、水は地下に存在している可能性があり、何らかの生命が存在しているのではないかと推測されています。
 また、一部の学者は火星の表面を改造して、いずれは人類が移住できるようにするというテラ・フォーミング計画を検討しており、火星は注目の的です。





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