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論文

 先週末に九州地方は大変な豪雨になり多大な被害が発生しました。このような大雨は昔からもあったのですが、最近の大雨は従来と比較すると異常な豪雨の場合が多いようです。
 例えば、2000年9月に名古屋市で市内の河川が氾濫して甚大な被害が発生しましたが、その原因は異常な豪雨です。名古屋地方気象台は1891年から気象観測を行っていますが、これまでの1日最大雨量は250mm程度でした。ところが、9月11日の雨量は428mmで、過去最大の雨量の1・7倍にもなり、また2日間の雨量は567mmで、これは年間の雨量の3分の1に相当する規模でした。
 その結果、堤防が18ケ所で決壊し、避難勧告の対象になった人数は55万人にもなり、床上浸水と床下浸水の家屋が62000戸になりました。
 また、2002年の8月にはチェコやドイツに大量の雨が降って、エルベ河の水位が平年よりも10mも上昇して氾濫し、道路や鉄道が寸断され、33万人が避難する被害が発生しましたが、そのときの雨量は平年の4倍にもなり、500年に1回の確率でしか発生しない豪雨だったといわれています。

 このような異常気象の原因は、確実には分かりませんが、地球温暖化ではないかという意見もありますが、この異常気象に非常に関心のある業界は損害保険業界だといわれています。
 名古屋市の洪水での被害総額は6700億円程度、またエルベ河の氾濫によるドイツの被害総額は2兆7000億円、チェコの被害総額が2400億円と算定されており、その被害への支払額が膨大なものになるからです。
 世界全体では、気象が原因の災害は1980年には28億ドル(3400億円)程度でしたが、98年には920億ドル(11兆円)と33倍になり、その結果、損害保険業界が支払った保険金は、1980年の1億ドル(120億円)から98年には150億ドル(1兆8000億円)と150倍にも増大しています。
 とりわけ1992年は8月24日にアメリカ南部を襲った最大風速75mの超大型ハリケーン「アンドリュー」の被害が300億ドル(3兆6000億円)にもなり、また、アフリカの史上最悪といわれる旱魃など、様々な気象災害が重なり、保険金の支払い金額が251億ドル(3兆円以上)にもなり、損害保険業界としては真剣に検討せざるをえない状況なのです。

 そのような気象の研究成果を背景にして新しい保険の商品も発明されました。「天候デリバティブ」といわれる保険です。
 「デリバティブ」という英語のもともとの意味は「派生的」とか「副次的」という意味ですが、これまで存在している株式取引とか為替取引というような金融商品をもとにして、新たな取引をするというものです。
 簡単な例では「株価連動預金」というものがあります。最近では預金しても利息はほとんどゼロですが、通常は預金には一定の金利が保証されています。しかし、「株価連動預金」では、株価指数が上昇すれば利息を増やし、低下すれば利息を減らすという仕組です。

 そこで、株価や為替レートの代わりに天候をもとにしようというのが「天候デリバティブ」です。
 例えば、水着を販売する会社は、梅雨が長くなったり、気温が上がらないと、期待していた売上に到達しません。そこで、平均気温が何度以下であればいくらの損失補償をしてもらうとか、晴天の日数が何日以下であれば、いくらの損失補償をしてもらうという契約を保険会社とするわけです。
 そのときに保険料に相当するオプション料を支払うのですが、平均気温が契約以上になったり、晴天日数が契約以上になれば、オプション料は無駄になりますが、以下であれば、保険金が支払われることになります。

 保険会社も気象予測を失敗すれば大変ですが、世の中は上手くできています。レインコートを販売する会社は水着を販売する会社とは条件が反対です。晴天ばかりであれば売れません。また、北海道のような地域では、夏でもストーブを必要とするような場所もありますから、灯油販売会社にとっては長期間にわたって気温が高いと商売にとってはマイナスです。
 したがって、保険会社は様々な分野の会社と保険契約を結べば、どこかの会社には保険料を支払っても、どこかの会社のオプション料は収入になるという仕組を作ることができます。

 これは破綻したアメリカのエネルギー会社エンロンが1997年にコークという会社と契約したのが世界最初、日本では1999年に三井海上火災保険(現在は三井住友海上)がスキー用品販売会社と契約したのが最初という新しい金融商品ですが、日本国内では2001年度に700件の契約で250億円、2002年度には1000件で300億円と発展しているようです。
 個人的には何でも金に変えるデリバティブという商品は好きではありませんが、転んでもタダでは起きないという精神には感心しています。





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