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論文

 今年の3月末で日本国内のカーナビの普及台数が約1150万台になりました。日本にある自動車の台数が約7200万台ですから、ざっと6台に1台がカーナビを装備していることになり、世界でもっとも普及している国です。
 また、交通渋滞情報がカーナビの画面に自動的に表示されるVICS(道路交通情報通信システム)も今年3月末で660万台が普及していますし、高速道路の料金所をノンストップで通過できるETCも今年6月末で100万台に到達しました。
 このような自動車に様々な情報通信手段を備えて便利にしていく技術を総称してITS(インテリジェント・トランスポーテーション・システム)といいますが、これからの情報社会の目玉技術と期待されており、来年10月には、愛知県豊田市でITS世界会議も開催される予定です。
 カーナビがあると、初めての土地でも目的地に迷わず行くことができ、私もカヌーで山奥の知らない場所に行くときなど便利だと実感しています。

 ところで、多くの皆さんはカーナビを使いながら、どうして自分の車の位置が正確に表示されるか不思議に思っておられるのではないかと思いますが、あれは軍事技術を利用しているのです。
 名前を「GPS(グローバル・ポジショニング・システム)」、専門用語では「地球測位システム」といいますが、地球の表面でも上空でも、電波の届く場所であればどこでも自分の位置が分かる仕組です。
 アメリカの国防総省が軍事利用する目的で、1978年に地球の上空2万キロメートルに打上げた24個(現在は26個)のGPSのための人工衛星があります。当初は軍事目的にしか利用できませんでしたが、1983年から民間にも利用させるようになりました。
 この人工衛星には精度が100万分の1秒という原子時計が搭載されていますので、そのうちの4個の人工衛星からくる電波を受信して、電波が発信された時間と受信した時間の差を計算すると、自分の位置を割り出せるという技術です。
 その精度は、以前は民間利用の電波に制約があったので、50〜100メートルにもなり、一本隣の道路を走っているようなこともありましたが、2000年5月からは、その制約条件がはずされましたので、精度が1桁向上し、現在では5〜10メートルの精度で場所を明確にすることができます。

 このGPSは1997年に公開された007シリーズの「トゥモロー・ネバー・ダイ」の最初の部分に登場します。
 世界のメディアの制覇を狙う悪役カーバーがGPSの信号を操作して狂わせ、南シナ海を航行中のイギリスの軍艦が間違って中国の領海に侵入し、中国との間に紛争が発生するという場面がありました。
 これは架空の話ですが、アメリカが戦争を開始するとGPSの精度を落とすという噂があります。
 真偽は定かではないのですが、技術的にその可能性はあるので、ロシアや中国は独自の人工衛星システムを打上げています。
 ロシアはGLONASS(グローバル・ナビゲーション・サテライト・システム)を運用しており、これは民間でも電波を受信して利用することができます。
 中国は今年の5月25日に四川省にある衛星発射センターから、「SARSを遠ざけ、打上げ成功によって民族を励まそう」という号令のもとに「北斗」という人工衛星の3機目を打上げ、これによって独自の地球測位システムを完成したといわれています。

 最近、話題になっているのがヨーロッパの動向で、今年の5月26日にESA(欧州宇宙機関)とEUが「ガリレオ」という名称の衛星測位システムの打上げを開始することに合意し、2006年から30基の人工衛星を上空23000キロメートルに打上げ、2008年から運用開始を予定しています。
 費用総額は34億ユーロ(約4000億円)が必要とされるため、安全保障の視点から独自のシステムを開発すべきだというフランス、スペイン、イタリアなどと、無料のGPSを使用すればいいというイギリス、ドイツ、オランダなどとが対立していましたが、やっと合意に達したというわけです。
 しかし、衛星測位システムの一極支配が崩れるアメリカは以前から、「ガリレオは民間が管理するからテロに利用される懸念がある」と牽制したり、民間利用の場合の精度の低下をさせないようなサービスをするなどしていますが、実行に踏み込んだわけです。

 日本が単独で衛星測位システムを開発運用するのは困難ですが、実は、日本も計画を進めています。
 これは準天頂衛星システムといわれる技術で、地上から見ると赤道を中心にして「8」の字を描くような軌道に3個の衛星を打上げ、そのうちの1基は必ず日本の上空にあるようにするシステムです。これによって、GPSを補完して精度を向上させるだけではなく、通信や放送にも利用することを期待しています。
 昨年11月に「新衛星ビジネス(株)」が設立され、総務省、経済産業省、文部科学省、国土交通省も参加して検討を開始しています。





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