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論文

 先週の6月5日に厚生労働省が昨年の人口の状態を調査した「2002年の人口動態統計」を発表しました。
 特徴の第一は、男性の死亡の原因のなかで「肺ガン」が急増していることで、史上初めて4万人を突破して4万1015人となったことです。
 第二に、離婚件数が過去最高を記録して28万9838組になったことも特徴です。特に、結婚30年以上、35年未満の夫婦の離婚が前年より10・3%も増加し、熟年離婚が増加していることが特徴です。
 しかし、何といっても重要な特徴は、出生率が過去最低を記録したことだと思います。
 出生率は女性が一生に産む子供の数ですが、2000年には1・36人、2001年は1・33人でしたが、2002年は1・32人に低下して過去最低になりました。
 とりわけ東京が1・02人と最低で、次いで京都の1・17人、奈良の1・21人、大阪と神奈川の1・22人、埼玉の1・23人と続き、大都市圏で低いということが明確に現れています。
 言うまでもありませんが、夫婦で2人以上の子供を産まないと人口は次第に減っていきますから、社会にとっては重要な問題です。
 来年あたりに日本の人口が頂点に到達するという予測もあり、日本の人口は確実に減っていきます。もし2000年の出生率の1・36人で推移すると仮定すると、現在1億2700万人の人口は50年後には8970万人、100年後には4440万人と、現在の3分の1になります。

 その原因を調査するために、国立社会保障・人口問題研究所が「出生動向基本調査」を実施していますが、そのなかで理想の子供の人数と予定している子供の人数についての質問への回答結果を見ると、結婚5年未満の夫婦については、理想が2・31人であるのに、現実に予定している子供の人数は1・99人で大きな差があります。
 また結婚しない人も増えてきています。これは国勢調査の結果ですが、結婚適齢期の25歳から29歳の男性では、1950(昭和25)年には未婚の割合は35%程度でしたが、50年後の2000(平成12)年には70%と倍増しています。女性も傾向は同様であり、この50年間で15%から55%に増加しています。そのように独身でいることは望ましいことではないという意見の割合も、1992年の調査では63%程度でしたが、10年後の今回の調査では47%に減ってきており、社会の意識も変化しています。
 その理由は「子育てや教育に費用がかかるから」が62・9%を占めています。そこで、その対策として国も地方自治体も児童手当の拡充、不妊治療への助成などの対策を検討していますが、なかなか効果があがっていないのが実情です。

 どうしたら子供の人数が増えるかを検討しなければなりませんが、それについては専門家が議論していますので、ここでは子供が減ることによって社会にどのような影響が発生するかを考えてみたいと思います。
 まず、子供相手のビジネスが厳しくなります。例えば、子供服や玩具など子供を相手にした商品の販売は減っていくし、学習塾のような子供を相手にしたサービスも減少していくことになります。このような個別のビジネスの盛衰も重要な課題ですが、国とか地方自治体の視点からは、年金や税収が成り立たなくなるという大問題に発展します。
 公的年金制度は分野によって始まった時期が違いますが、国民すべてが年金制度の対象になったのは1961(昭和36)年に国民年金制度が制定されてからです。その当時は7人の納税者が1人の年金生活者を維持するという関係でしたから問題ありませんでしたが、現在では2人の納税者で1人の年金生活者を維持するまでになっていますから、破綻するのは当然です。

 この問題を解決しようとすれば、税金と医療費と公的年金が収入に占める割合を増大させなければならず、その割合が95年には36・7%、2000年には39・7%でしたが、2010年には47・4%、2025年には60・0%になるという計算もあります。月給が30万円ですといっても、手取りの金額は12万円しかないということになるのです。

 人口が増加し、経済も急速に発展する時代に制定された制度が、人口も経済も縮小する時代に適合しないのは当然ですから、制度を変更しないといけないのですが、どうも楽観主義が支配しており、制度の改革が遅れているのが実態です。
 堺屋経済企画庁長官のときに、人口が減少しても発展した国家はあるかということで、世界の歴史を調べたのですが、過去にはないという結論になったようで、これを突破できれば、日本は歴史を変えることになります。

 最後に、真剣に考えなければいけないという話をさせていただきたいと思います。
 フランスで子供に急速な変化を教えるための「29日目の恐怖」という話があります。「ある朝、近所の池に行ってみたら、一枚のハスの葉が浮いていた。翌日には2枚、次の日には4枚と増えていった。29日目には半分が埋まっていた。それでは池が全部埋まってしまうのに、あと何日かかるか」というものです。
 冷静に計算すれば、だれでも翌日だと分かるのですが、池の半分が青々とした水面という状態を見ると、まだまだ大丈夫と思ってしまうのです。まさに「いまそこにある危機」(トム・クランシー)なのです。





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